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歯の健康メモ
アゴお大事に
【平成12年05月05日号】
東京都小金井歯科医師会 / 黒田 百樹

寒い休日診療の事、一人の患者さんが急患としてやって来た。吐き気を伴う程の激痛は親知らずだろうと言う。頭痛もするし、肩も凝る、昨夜は一睡も出来なかったとの事。早速レントゲン等で綿密に診査をした。隠れた現代病とも言われる「顎関節症」であった。口も開きにくく、触診すると耳の前が痛いと言う。歯の型をとり、噛み合わせをチェックすると上と下のアゴがズレている。かかとだけで歩く歩行姿勢を続けている時の、全身の骨格に及ばす影響に似ている。ちょうどそれと同じ噛み合わせをしているとの病状を十分説明し、投薬した。患者さんの顔に笑顔が戻り帰宅した。

「顎関節症」とは、アゴ、顔、頚部の痛み、顎関節部の雑音、口が開き難いといった運動障害の三つのうちの一つ以上を主症状とする慢性疾患である。原因の大半は噛み合わせの異常が関与している。ほとんどの人は一度や二度はそんな症状を体験しているだろうが、治療が必要な人はそのうち5〜7%で、大抵症状は自然に改善される。噛み合わせの異常にアゴや歯の方が適応するのである。一対三から一対九と、女性が男性を上回り、加齢に伴って重篤度を増す傾向がある。発症から来院まで期間が長く、慢性的経過をとる。これが当院での統計である。

アゴの関節は耳の前にあり、すり鉢とスリコギ棒のような関係で鉢の斜面を、先に丸みを持った棒が滑走し、回転し、複雑かつ、強力なアゴの機能を担っている。しかも丸みを待った棒の先(下顎頭)に、関節円板と言われる繊維質の物体があり、チカラが直接鉢の壁に伝わらない様に和らげている。自分の耳の前に指を置いて口を開閉するとその動きが解る。その動きは短くて強い筋肉に支配され、その動く方向は鉢の斜面の角度と前歯の傾斜角度との兼ね合いに規制されている。しかも、左右は一対のものとして共に出たり、片方が出るともう片方は引っ込んだりする上に、前述の様に滑走と回転を含んだデリケートな動きをする。この辺りの組織全ては一糸乱れぬチームワークが保たれ、厳しい統制下で軍隊の様に整然としている。歯を抜いたり、歯を治療したり、習慣的に特定の筋肉を使い過ぎたりの緊張が加わると、調和が乱れ、円板を含め問題が生ずるのである。潜在的頭痛を悪化させアゴの動きをコントロールする筋肉に硬直を起こさせ、耳や肩の筋肉にも硬直が及ぶ。私の医院では、冬の北風と夏の冷房が二大来院期となる。

口の中の神経は数ミクロンの髪の毛の存在も逃さない程精密です。異常を感知し無意識に避けようとアゴをズラす、この防禦的ズレが「顎関節症」のきっかけになる。心配事、ストレスも同様に筋の緊張を引き起こす。くいしばりの強い患者さんが多くいてよく注意をする。「もっとリラックスして肩を10センチ下げてください」。治療は専門的に言えば、顎関節は滑液に満ちた複合関節なので整形外科的な基本に従うが、記述の通り大変ユニークな関節なので、原因となっているアゴをずらしている歯の治療、歯並びの矯正などを行い、顎関節への過剰な負担を軽くする細心な計画に沿った治療が必要で、長期にわたる事もある。あまり馴染まない患者さんもいるが、リラクセーションのためのバイオフィードバック法を取り入れる場合もある。補助的装置を口に入れたりもする。しかし、姿勢を良くしたり、生活様式を変えたりといった基本に立ち返る注意も必要である。いずれにしてももう一度、アゴに過度な負担を与えていないか、歯科医師と相談して頂きたいと思います。アゴお大事に。