小金井歯科医師会

共に歯科医療の充実を

【平成09年11月05日号】
東京都小金井歯科医師会 / 田中 和幸

歯科医療は近年大変な進歩を遂げたといわれています。最新の科学技術の成果が次々と新しい歯科材料や医療器具、治療法を生み出し、我々歯科医師さえ対応にとまどうほどです。また過剰ともいえる医療の供給体制は、待たずに丁寧な治僚を受けられるという利便性を患者さんに与えています。しかし、国民の歯科的健康が増進しているかどうかに関しては、厚生省の調査を見る限り残念ながら否といわざるをえません。調査が始まった40年前と比べ、現在の日本人の口の中は大差がないか、むしろ悪くなっているという困った事実があるのです。現在の歯科医療が抱える問題点も含めて調査の内容についてお話しします。

厚生省は、昭和32年以来6年ごとに全国的な口腔の健康状態の調査を行い、「歯科疾患実態調査の概要」として公表しています。最近では平成5年に7回目の調査が実施されました。その内容のいくつかについて検討していきますが紙面の都合上、昭和32年と平成5年の比較のみとします。

①喪失歯のある者の率=何らかの歯科疾患により永久歯を失った人の割合は、昭和32年の44%から平成5年の58%へ増加
②一人平均喪失歯数=一人平均何本の歯を失っているかでは、昭和32年の3・9本から平成5年の5・9本へと増加
③一人平均のむし歯数=DMF歯数とも呼ばれ、永久歯のむし歯で未処置のもの、むし歯が原因で抜歯されたもの、処置が完了したもの、すべてを加えた一人平均の本数で昭和32年の5本から平成5年の15本へと増加
④補綴(ほてつ)を完了した人=入れ歯やブリッジを装着したり冠をかぶせる治療を完了した人の割合は昭和32年の27%から平成5年の47%へと増加しています。

材料や器具が進歩し、歯科医師の数が増加すれば補綴を完了した人が増えるのは至極当然のことですが、40年前と比べ歯を失う人の割合や、失う本数が増えたり、むし歯も増えるとなると医療としての存在理由を問われかねません。歯科医学の進歩とは何であったのか、そのような歯科医療の在り方に国民から疑問を持たれたとしても無理からぬことだと考えます。

さらに平成5年の調査では、70歳で約17本の歯を失っていますが、70歳でいきなり失ったわけではなく50歳で約5本、60歳で10本と50歳代から急激に失う歯が増加しているのがわかります。中には老化のせいで歯を失うのだとあきらめている方もいますが、原則として老化によって歯が失われることはないのです。ほぼすべて歯周病やむし歯という病気で失われているのです。

私の診療所を訪れる50歳前後の患者さんにも前述の調査と同様の徴侯が見られることがあります。しかしほとんどの方は何年かごとに歯科医院に通院し、歯を抜いたり入れ歯を作り直したりといった治療を受けてはいるのですが、経年的に口の中は悪くなっているのです。手早く簡単に入れ歯を入れ冠を作り直すといった治寮だけでは口の中はいつまでたってもよくはなりません。むしろ安易な介入を避け、口の中の正常な形態や機能をどうすれば長く維持していけるのかという方向の中にしか解決の糸口はありません。

つまりは歯周病やむし歯に対する徹底した治療はむろん、それらの原因となった口の中の環境を改善することが再発を防ぐ意味からも非常に大事なことです。このためには、患者さんの治療への積極的な参加や自己管理が大いに望まれます。小金井歯科医師会々員はそのような患者さんの努力を心から応援します。