小金井歯科医師会

インプラント療法とは


【平成17年05月01日号】
東京都小金井歯科医師会 / 田中 和幸

インプラント(人工歯根をあごの骨に埋め込む治療法)について患者さんから質問されることが最近多くなりました。以前は限られた術者によって行われる特殊な治療と思われていたこともありましたが、特にここ数年急速に普及し、一般的な治療法の一つとして認識されつつあるようです。

歯を喪失した場合、それを補う方法として、取り外しのできるいわゆる入歯と、固定式の入歯としてブリッジがあります。

前者は噛(かむ)力を歯肉で負担することから、大きく異物感があり着脱の煩わしさもあります。

後者は固定式のため、しっかり硬いものも食べられますが、原則として失った歯の両隣の歯を支えとするため、たとえそれが健康な美しい歯であってもかぶせるために削らなくてはなりません。

異物感なくしっかり噛めて両隣の歯を傷つけることもない、あたかも自分の歯がよみがえったようにしてほしいという思いが、インプラント療法として結実してきたといえます。その歴史は古代マヤ文明にまでさかのぼります。西暦600年ころのものと思われる真珠貝製のインプラントが、一応の成功をみた現存する最古のインプラントとして知られています。それ以前にも石や象牙などさまざまな材料が使われた形跡があります。

しかし生物学的にも安全で長期間、口の中で機能することが理論の上でも、臨床研究でも確認されたのは1970年代に入ってからのことです。純チタン製のインプラントは以後ハード・ソフト両面で進化しつつ、現在に至っています。

とはいえ、すべての患者さんの症例で第一選択としてインプラントを勧めることが最善と言えるわけではありません。いかに進化したとはいえ、100%の成功率が約束できるわけではありませんし、種々の制約もあります。

これを全身的因子と局所因子に分け、簡単に列挙してみます。

まず、全身的因子として、糖尿病、肝硬変、尿毒症、貧血等は手術後の治癒に大きな影響を与えるため避けるべきでしょう。骨粗鬆症の患者さんもリスクは高いといえます。

局所因子としては、骨の幅、長さ、形態の不十分なもの、骨質が軟弱なもの、血管や神経の走行や、上顎(がく)洞の位置に注意が必要です。レントゲンやCTで調べてもらえば安全性は高いでしょう。

これらの条件をクリアしてインプラント治療が成功すれば、異物感なく天然歯と同等の感触でものを噛むことができます。

純チタン製のため、虫歯になる心配はありませんが、インプラント周囲炎が起きることがあります。

インプラント周囲炎とは、天然歯でいうところの歯周病とよく似た症状です。インプラントと歯肉の境目に蓄積した細菌によって引き起こされる感染症です。

予防には歯ブラシ等で日常的な自己管理が必要ですし、定期的に歯科医院でのメンテナンスも必要です。これらはインプラントのためだけに必要な行為ではなく、自分の歯を守るためにもぜひとも必要です。

インプラントは現在保険適用ではありませんが、いくつかある治療法のなかの有効な選択肢の一つといえます。安全性、使いやすさ、審美性も改善されてきています。充分な説明を受け、術者との信頼関係のもとで行ってください。